心理学の用語では「情動感染」という。感染といっても、ウイルスや細菌に感染するわけではない。脳の神経細胞ミラーニューロンがワイヤレス・ネットワークのように感情を伝染させているのだ(※1)。
その結果、感情は周りの人に影響を与えている。
感情の感染力は、極めて強力だ。しかも楽しい気持ちよりも、ネガティブな感情の方が感染力は強い。
ストレスを感じている同僚や家族を目にすると、神経が瞬時に影響を受けることがある。この現象を「セカンドハンド・ストレス」という。職場や家庭で知らない間に受けるストレスの多くは、誰かからもらったストレスなのだ。
ある研究グループによれば、被験者の26%が、ストレスを感じている人を見ただけで自身のコルチゾール(ストレスホルモン)のレベルが高まったという。
感染力は見知らぬ他人からより恋人からの方が強かった(40%)。だが、見知らぬ他人がストレスにあえぐ映像を見たときも、24%の人がストレス反応を示した(※2)。
「セカンドハンド・ストレス」は家族や通勤途中に見かけた人、何気なく見たTVからも受けてしまうようだ。
「セカンドハンド・ストレス」は、もともとは潜在的脅威を察知する生来の能力だといわれており、人類が生き延びるために発達した。そのため能力を消そうとするよりは、対処法を身に付ける方がいいのではないだろうか。
無用なストレスを受けない態度を知るためには、ハワイ大学の「感情が伝わるのを防ぐ方法」を調べた実験が役に立つ。
参加者に人生で一番うれしかった瞬間と悲しかった瞬間を語ったビデオを、別の参加者に3つのパターン(相手の感情を理解しようと努める、相手になったつもりで見る、外部の観察者として見る)で見てもらった。
その結果、「観察者の視点」で見た場合には、感情が伝染しないことが分かったのだ(※3)。
つまりその感情になりきってしまうのではなく「なるほど、この人はイライラしているのだな。何に対してイライラしているのだろう」と観察者になりきる、ということだ。
風邪やインフルエンザに感染するのを予防するため、私たちは手洗いをしたりマスクをしたりする。ネガティブな気持ちが感染するのならば、予防をするべきだ。ネガティブには、ポジティブで対抗しよう。
ポジティブ心理学の第一人者ショーン・エイカー氏が考えるストレス感染予防法はこうだ。
1. ストレスを怖がらず、ストレスの良い面もあると考える。
2. 会話をポジティブな言葉から始める。
3. 自己肯定感を持つ。
4. 体験を書き記す、有酸素運動をする、瞑想(めいそう)する、ありがたいと感じる何かを3つ書き出すなどを習慣にするとポジティブな気持ちを保つことができる。
健康を保とうとするように、意識してポジティブで幸せな気持ちを保とう。
幸せであると感じると、脳のパフォーマンスが良くなり、成功しやすいという法則もあるのだ。人の幸せを聞いたときも、嫉妬するのではなく“幸せ菌”や“成功菌”が飛んで来たと考えよう。
怒りやストレスも感染するが、幸せな気持ちや、親切心も人に感染する。あなたからポジティブな気持ちや幸せを感染させることも可能なのだ。